東京 奥多摩温泉 おくたま路
都心から約90分。豊かな自然に包まれた「東京 奥多摩温泉 おくたま路」が、リニューアルオープンした。建物は、3方向を川に囲まれた場所に建つRC造3階建て。どの客室からも川を望むことができる、なかなか得難い立地である。築60年ほど。何度かの増改築を重ねながら使われてきた建物は、ところどころ少しくたびれてきていた。今回はその建物を全面的に見直し、心地よい温泉、おいしい料理、そして奥多摩の豊かな自然を、ゆっくり楽しめる宿へとリニューアルしている。今回の仕事で、まず一苦労だったのが既存建物の状態を把握すること。長い年月のなかで増改築が繰り返されているため、図面と現場を見比べながら「これは残せる」「ここは直したい」「ここまでやると予算が」と、ひとつひとつ整理していく。どこを工事対象とし、どの程度まで手を入れるのか。予算との調整をしながら、多くの関係者で検討を重ねた。そんななか、企画・運営を担う事業主の懐の広さと、最後まで粘り強く良いものにしようとする姿勢には、設計者としても大いに刺激をいただいた。我々から提案できることも多かった。単に古くなったところを新しくするだけではなく、この場所でどう時間を過ごすのか、何を見て、何を感じてもらうのか。たくさんの提案を繰り返した。
エントランスラウンジは、切妻屋根の下に広がる大きな空間である。新築当時のRC登り梁には細やかな細工が残り、なかなか美しい。この大屋根を活かし、中央に高木を据え、レセプションやラウンジ、ショップなどを緩やかに配置した。石のパーティション、ベンチ、暖炉、既存のRC柱が、それぞれ距離をとりながらひとつの場所をつくっている。素材はなるべく土地のものを選んだ。奥多摩産ひのきや地元の石を使い、料理には野菜、肉、卵、川魚、ショップには土地の野菜も並ぶ。食べるもの、手に取るもの、建築、「奥多摩に来た」という感覚が積み重なるとよい。色彩は暗めに抑え、主役は窓の外の自然。春は桜、秋は紅葉を楽しめる。レストランも大きな屋根の下にあり、梁と屋根のずれから高窓の光が入る。家具配置の変化に対応できる照明計画とし、居場所や動線はカーペットで柔らかく示した。3面の窓から自然を楽しめる。アプローチの紅葉は、料理長兼支配人が長年ご自宅で育ててきたものだ。外装には極力手を加えず、風除室のみひのきの格子で更新した。中庭も既存の石庭を活かしながら植栽を添えている。まだ少しあっさりしているが、木々が育ち、建物と馴染んでいくのが楽しみである。
東京 奥多摩温泉 おくたま路
用途:旅館
所在:青梅市二俣尾
竣工:2026年7月
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上3階
建築面積:1764.03m²
敷地面積:14958.53m²
延床面積:3082.34m²
事業主:国際ホテル株式会社
アートディレクション:マウント
設計:佐久間徹設計事務所
施工:佐久間建設・三和エステート
撮影:西川公朗
アクセス:JR青梅線「石神前駅」より徒歩約10分
公式サイト:https://www.tokyo-okutamaji.jp/