井の頭の家A

井の頭公園からほど近く閑静な住宅街に建つ住宅である。周囲を隣地建物に囲まれた環境にあるため、採光や通風を確保し、自然を感じるために、敷地内に意図的に外部空間をつくるように配置計画を考えた。道路に向かって45°回転させた正方形を3つ並べ、45°ずれたギザギザが敷地内にいくつかの庭をつくる。雁行した内部空間が視覚的な奥行きをもたせ、どこを向いても庭の木々が目に入る。正方形は対角線の距離が最も長い。これを利用していちばん遠くまで見通せる空間をつくるのはいつもの通り。それと同時に今回は家中のあちこちの居場所が見え隠れする。さらに中央の吹き抜けを介して見上げると空を見上げることができる。幾何学形を利用した平面であるが、うまれた内部空間は複雑で有機的だ。

環境性能の指針として、完全ZEHおよび東京ゼロエミ住宅の水準3(2024年基準)を取得している。ただ、あくまで目標は認定の取得ではなく実質的な環境性能を高めながら快適な暮らしを叶えることとし、省エネ計算の評価方法にも慎重な見方でシステムを組み立てて計画している。


結果として、充填断熱と外張断熱の併用、オール電化と太陽光発電システムとHEMS、全館熱交換換気システム、ヒートポンプ式のエアコンと床暖房、が採用された。各所に気密性に対する処理も施し気密測定も行った。一方、字面だけ追いかけると大きな設備が、極力嵩張らないようにしたい。例えば熱交換換気システムは1F天井内自体をチャンバーとして利用し、省スペース化を計っている。その性能のおかげで、のびやかな空間に快適さを担保してくれた。

最近、環境性能を追い求めるばかりに住宅が窓のない箱になった、という指摘を見聞きする。地球環境負荷への対策は社会的な正義ではあるが、それが住まい手にとっての価値を高めるかどうかはイコールではない。今回のギザギザに雁行する外壁は、性能を高めることと逆行して、外皮の面積を増やして熱の損失を大きくしてしまっている。一方で、外部や内部の関係において替えがたい豊かさを与えてくれた。この方向性が相反する場合には葛藤せざるを得ないし、あまりうまく説明ができない。この葛藤はプランだけでなく開口のバランスや設備設計の方針でも起きてくる。地球環境の負荷を軽減することには大賛成である。だからこそ社会的な正しさによって建築や生活の文化的な側面(というと大仰かもしれないが)を見失わないようにしたいとも思う。
年々暑くなっている夏も終わり、秋になった来た。空調をとめて、大きく開けた窓から風を通したい。「寝る前には窓をしめておこう、お腹を冷やさないように」そんなささやかな感性も大切していきたいと思った。


井の頭の家A

用途:個人住宅
所在:三鷹市井の頭
竣工:2025年7月
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:166.91㎡
建築面積:66.75㎡
延床面積:122.90㎡

設計:佐久間徹設計事務所
施工:内田産業
造園:FUJIWARA NURSERY
撮影:西川公朗

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